大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)356号 判決 1971年11月08日

原告

越前弘子

被告

金山有一こと金山裕一

ほか一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

原告は、「被告らは各自原告に対し金七六万四五五〇円及び内金七四万四五五〇円に対する昭和四三年九月二〇日から、内金二万円に対するこの裁判確定の日の翌日から完済まで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求める。

被告金山は主文第一項同旨の判決を、被告会社は主文同旨の判決を求めた。

第二当事者の主張

(原告の主張)

一  原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一) 日時 昭和四三年九月二〇日午前零時五分頃

(二) 場所 名古屋市中区栄二丁目二番八号先路上

(三) 加害車 訴外鈴木土志広運転の普通乗用車(名古屋く二七五五)(以下鈴木車という)訴外三浦清市こと季清市運転の乗用車(三河五そ八八七〇号)(以下三浦車という)

(四) 態様 原告が客として乗車した鈴木車に三浦車が追突した。

(五) 傷害 原告は頸部挫傷の傷害を受け入院加療二五日間、その後現在まで通院中である。

二  被告金山は三浦車の、被告会社は鈴木車の各運行供用者であるから自賠法三条の責任がある。

三  原告の蒙つた損害は、次のとおりである。

(一) 治療費 金二四万〇六五〇円

昭和四三年九月二〇日から昭和四四年六月一九日までの間の伏見外科病院における分は金二〇万一三六〇円である。

昭和四四年一月一〇日から同年八月二〇日までの間の岩菅治療院における分は金一万六〇〇〇円である。

昭和四五年九月から昭和四六年六月までの間の斉藤外科における分は金一万四九四〇円である。

昭和四六年四月二八日から同年六月一一日までの間の中西病院における分は金八三五〇円である。

(二) 休業補償 金六五万八九〇〇円

原告は、訴外有限会社アタアクラブにホステスとして勤務し一カ月金五万九九〇〇円の収入を得ていたところ、本件受傷により昭和四三年九月二〇日から昭和四四年八月二〇日までの一一カ月間休業しその間合計金六五万八九〇〇円の給与の支給を受け得なかつた。

(三) 家政婦代 金四万五〇〇〇円

原告は七才になる長女を女手ひとつで育てていたが本件受傷により子供の世話ができなくなり、家事手伝人を頼み金四万五〇〇〇円を支払つた。

(四) 慰藉料 金三〇万円

(五) 弁護士費用 金二万円

四  以上の如く原告の損害は合計金一二六万四五五〇円となるが、原告が受領した自賠責保険金五〇万円を控除すると残額は金七六万四五五〇円となる。

五  よつて原告は被告ら各自に対し金七六万四五五〇円及び、内金七四万四五五〇円に対する本件事故発生の日たる昭和四三年九月二〇日から、内金二万円に対するこの裁判確定の日の翌日から完済まで、民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める。

六  被告の鈴木が無過失であるとの主張は否認する。

本件事故現場は交差点で東西の両側に横断歩道が設置されていた。鈴木は職業運転手として前記時刻頃このような場所を通過するに際しては、常に先行車との車間距離を十分にとり、前方左右を注視し歩行者の安全を確保するため徐行し、歩行者の横断を認めたときは予め何回かブレーキを踏んで後続車にも停車を予告するとともに、バツクミラー等に、より後続車の動静に注意し、追突を回避すべき義務がある。しかるに、鈴木はこれを怠り前車との間に十分な車間距離もとらず前方不注視により歩行者にも気付かず、また、車道幅員が広いのに自車後方左右を確認しないまま、まん然時速約三〇粁で進行していたため、先行車が横断歩道手前で停車したのに引続き急制動で辛じて停車したが、後続の三浦車の追突を回避することができずして本件事故を発生させるに至つたものである。

(被告金山の主張)

一  原告主張一(一)ないし(四)は否認、(五)は不知。

同二の同被告の責任は否認。

同三、四は不知。

二  三浦車は同被告の所有に属するものではない。すなわち、同車はもと同被告の所有に属したところ、同被告はこれを昭和四二年一二月二九日訴外トヨタ自動車株式会社に売却したものである。

(被告会社の主張)

一  原告主張一(一)ないし(四)は認める、(五)は不知。

同二は認める。

同三、四は不知。

二  本件事故は三浦の一方的過失により発生したもので鈴木には何らの過失もない。すなわち、鈴木車の前車が横断歩道手前で横断者を横断さすため一時停止したので、鈴木車もこれに引続いて一時停止していたところ、三浦が前方注視義務違反、車間距離保持義務違反(道交法二六条)により、三浦車を鈴木車に追突させたものである。一般に追突事故においては追突車の一方的過失に基くことは明白な事実である。尤も被追突車が、停止すべき必要のないところで、故意に急停車するとか、前方不注視により急停止するとか、操作上のミス(エンスト等)で停止するとか等の事由で追突された場合には被追突車の過失が認められることもあり得よう。しかし、本件では、鈴木は時速約三〇粁で走行し前車が横断歩道手前で停止するに続いて停止したに過ぎず、その際特段前車の停止するのを発見するのが遅れたこともなく、したがつて急停車もしていない。

そして、被告会社は鈴木車の運行に関し注意を怠つておらず、また、同車には構造上の欠陥も機能障害もなかつたから免責を主張する。

第三証拠〔略〕

理由

(被告金山に対する請求の当否)

一  交通事故の発生

〔証拠略〕により優にこれを認めることができる。

二  運行供用者責任

そこで被告金山が三浦車の運行供用者であつたかどうかについて判断するに、〔証拠略〕によれば三浦車は、もと、同被告が使用していたが(新車の所有権留保付割賦販売として、販売業者たる訴外愛知トヨタ自動車株式会社から同被告に売渡され、同被告が使用権を設定していたものと思われる)、本件事故前の昭和四三年一二月二五日、同被告から同会社に下取りに出され、その後同社傍系の訴外東愛知トヨタ中古販売株式会社の手により三浦がこれを購入し、本件事故当時も同人がその使用者であつた事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実からすれば、同被告は、事故当時すでに同車に対する運行支配を喪失していたこと明白であるから自賠法三条に所謂運行供用者を以て目し難い。

(被告会社に対する請求の当否)

一  交通事故の発生および運行供用者

原告主張第一項(一)ないし(四)および第二項の事実は当事者間に争いない。

二  そこで被告会社主張の免責の抗弁について判断する。

〔証拠略〕を総合すると次の事実を認めることができる。

(一)  本件事故現場は、前記場所を東西に通ずる舗装平坦な道路と同所を南北に通ずる同様道路が直角に交差する信号機の設置なく、また、交通整理も行われていない交差点であり、その西側に横断歩道が設置されている。東西道路は車道幅員二〇・八メートルで中央に市電の軌道が設置されており、南北道路の車道幅員は一三米である。なお、四〇キロメートルの速度制限がなされており、交通ひんぱんではあるが見通しよく夜間も明るい場所である。

(二)  鈴木は原告の同乗した鈴木車を運転して東西道路の左側(車道南端から約五メートル北)を時速約三〇キロメートルで西進したが、当時、同道路には西進車がかなりあり、鈴木車も先行車と一〇メートルから二〇メートルの車間距離を保つてこれに追従して本件交差点にさしかかつたところ、先行車が前記横断歩道の手前で停止したので鈴木もこれにともない急制動気味に停止した。

(三)  三浦は三浦車を運転し、鈴木車に追従して時速約四〇キロメートルで東西道路を西進していたところ、前記の如くして鈴木車が停止するのを僅々五メートル以内に接近して初めて発見し直ちに急ブレーキをかけたが車間距離不適当かつ前方不注視のため、間に合わず停車直後の鈴木車に追突するに至つた。

〔証拠略〕中右認定に反する部分は措信し難く、他に、これを覆すに足りる証拠はない。およそ車両が他の車両の直後を進行する場合先行車がたとえ急停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な車間距離を保持する義務があることは道交法二六条一項の明定するところであり、本件においても、前認定事実に徴すると、本件事故は後車運転者たる三浦の車間距離保持義務違反、前方注視義務違反の一方的過失に基づいて発生したものと認めるのが相当である。尤も後車において、前車が停止することが全く予測できない場合ないしは割り込み(同法三二条)、後車に対する車間距離義務違反(同法二六条二項)等により前車が後車の追突を誘発する原因となる不適切な停車をした場合などには、前車の運転者にも過失を肯認できるであろうが、本件は、このような場合に該当しないこと明らかである(そして、鈴木が急停車した場合であつても、右のような事情が認められない本件においては、にわかに、急停車の事実のみにより鈴木の無過失を覆すには不十分である。また、同人が前車との車間距離を保持していなかつたとの原告の主張については、にわかに、これを認め難いこと前叙のとおりであり((前掲(一)(二)事実によれば、鈴木車と前車との適当な車間距離は最低約一〇メートルと認めるのが相当である))、その他鈴木に原告主張の如き後方左右の確認義務があるとは解し難い)。

以上の如く鈴木は先行車が横断歩道手前で停止したのに応じて停止したにすぎず、本件事故発生について無過失であり、本件事故は、挙げて三浦の前記過失により惹起せられたものと認めざるを得ない。

しかるところ、〔証拠略〕を総合すると、鈴木車には構造上の欠陥、または機能障害がなかつたことを推認し得る。

叙上の次第で被告会社の免責の抗弁は理由がある。

(結論)

よつて、原告の請求はいずれも失当として棄却すべく、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 可知鴻平)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例